
リアルタイムPCRのTaqManプローブを注文したいけど、どうやって検索すればよいか分からない…

TaqManプローブを選ぶ時の基準や注意点ってある?
そんな疑問をお持ちの研究者の方へ。リアルタイムPCRに欠かせないTaqManプローブやプライマーの選定は、実験の成功を左右する重要なステップです。
本記事では、Thermo Fisher ScientificおよびIDT(Integrated DNA Technologies)の公式サイトを活用して、TaqManプローブを検索・選択・注文する具体的な手順を丁寧に解説します。
加えて、Assay IDの見方やプローブのデザイン領域の違いといった注意点もカバー。プローブ選定の実例も紹介しています。
初めてプローブを注文する方は、ぜひ最後までご覧ください!
はじめに:TaqManプローブとは?
TaqManプローブとは、リアルタイムPCR(定量PCR)で特定のDNA配列を検出するために使用される蛍光標識された短いDNA断片です。DNA増幅時のTaqManプローブの蛍光強度を測定することで、DNAの増幅量をリアルタイムで定量できます。
この記事では、TaqManプローブの具体的な検索・注文方法を紹介します。特に、Thermo Fisher Scientific社およびIDT社のウェブサイトを使った検索方法を解説します。
なお本記事では「TaqManプローブとプライマーのセット」を「プローブミックス」と呼びます。以下に、例としてマウスの「Sox9」遺伝子を対象にプローブミックスの検索注文方法を紹介します。
Thermo Fisher ScientificでTaqManプローブを検索・注文する方法
遺伝子名の入力
まず、以下のThermo Fisher Scientificのサイトにアクセスし、「Search within TaqMan™ Assays and Arrays」の検索欄に「Sox9」と入力してください。

“Species(生物種)”欄で“Mouse”を選択すると、マウスに対応したプローブミックスだけが表示されます。ただし、検索した遺伝子以外の関連遺伝子が含まれていることもあるため、目的のプローブミックスを選びましょう。「Gene」列でソートして探す方法も便利です。

特定のAssay ID(例:Sox9の場合は Mm00448840_m1)のプローブミックスを検索する場合は、そのIDを直接検索することも可能です。
Google ScholarにAssay IDを入力すれば、そのプローブミックスが使用されている論文を探すことも可能です。
プローブミックスの選択基準
Assay IDが決まっていない場合は、遺伝子名で検索した結果に表示された中から、以下の項目を参考に選びましょう:
- プローブやプライマーのデザイン領域
- 引用文献数
- 価格
- 「Recommended」 のプローブミックス
- 蛍光色素
- 容量
プローブやプライマーのデザイン領域
Assay ID の末尾の英数字が、プローブやプライマーの大まかなデザイン場所を示しています:
- m1:プローブがエクソンジャンクション上にデザイン。ゲノムDNAは検出されない。RNA を測定する場合は、m1のアッセイ推奨。
- s1:エクソン上にプライマーおよびプローブがデザイン。ゲノムDNAを検出。RNAを測定する場合はDNase処理が推奨。
- g1:プローブがエクソンジャンクション上にデザイン、または1つのエクソン上にプライマーおよびプローブがデザイン。ゲノムDNAを検出する可能性あり。RNAを測定する場合はDNase処理が推奨。
より詳細な説明は、以下の公式ページを確認してください:

検索結果の「Details」をクリックすると、プローブやプライマーのより詳細なデザイン情報を確認できます。

「Details」をクリックして開いた画面をスクロールすると「Interrogated Sequences」の表が表示されます。

「Interrogated Sequences」の最上部に表示されている情報を例に説明します。
- Interrogated Sequence: NM_011448.4
- Exon Boundary: 2-3
- Assay Location: 1062
- Amplicon Length: 101
これは、「NM_011448.4」という遺伝子配列の「Exon2-3」のエクソンジャンクション上にプローブがデザインされているという意味です。
具体的には、「NM_011448.4」の配列の1062番目の塩基を含む場所にプローブがデザインされており、前後101塩基の範囲内にプライマーがデザインされているということです。
「NM_011448.4」などの配列を確認する際は、SnapGene Viewerを利用するのが簡単です。「NM_011448.4」という番号をコピペするだけで配列情報を入手できます。
SnapGene Viewerの使い方については、下記の記事をご参照ください。
Thermo Fisher ScientificのTaqMan Gene Expression Assaysのプライマーやプローブセットの配列は非公開情報のため、正確な位置を特定することはできません。おおよその位置のみ確認可能です。
プローブミックスを選択する際は、標的遺伝子のバリアント(variant)どれに注目するか注意が必要です。バリアントが複数ある場合、特定のバリアントの増幅を検出できないプローブミックスがあるかもしれません。プローブやプライマーの位置を確認して、自身の目的とするvariantを検出できるプローブミックスを選びましょう。
下記リンク先も参照してください。

また、過剰発現ベクター由来の転写産物など、内因性遺伝子由来の転写産物以外を標的とする場合も注意が必要です。
例えば、遺伝子のコーディング領域のみで構成された過剰発現ベクターを用いる場合、プライマーの位置がコーディング領域の外側にあると、過剰発現しているはずなのにPCRで検出できないことになります。
引用文献数
「Citations」で確認できます。引用数が多いと安心感があります。どのような論文に使用されているか確認して、信頼できる論文で使われているとより安心です。

詳細は下記リンク先を参照してください。

価格
「Price」で確認できます。安価な方が嬉しいのは当然です。上述した条件に差がないプローブミックスが複数ある場合は、安い方を選ぶとラボのお財布に優しいです。

「Recommended」のプローブミックス
上述した条件で探した結果、自身の実験目的を満たすプローブミックスが複数あった場合は、Assay IDの上部に「Recommended」と表示されているものを選ぶと安心感があります。

ただし、最初から何も考えずに「Recommended」を選ぶのは避けましょう。自身の実験の目的にそぐわないプローブミックスを選択する可能性があります。
蛍光色素
「Dye」から蛍光色素(FAM-MGB、VIC-MGBなど)を選択します。

リアルタイムPCRを日常的に実施しているラボの場合は、他の遺伝子での測定に使用している蛍光色素を確認すると、選択の助けになるかもしれません。
標的遺伝子の蛍光色素と内部標準遺伝子(Gapdh, Actb, Hprtなど)の蛍光色素は別にすることが多いです(同じチューブ/サンプル内で両遺伝子を同時に測定できるようにするため)。
容量
「Size」から選択できます。調べたいサンプル数に応じて決定してください。

大容量の方が割安ですが、初めて使用するプローブミックスはまずは少量で検討する方が良いかもしれません。何らかの理由で実験がうまくいかなかった場合のダメージが少なくて済みます。
IDTでTaqManプローブを検索・注文する方法
詳細は下記ウェブサイトを参照してください。
遺伝子名の入力
下記URLのIDTのサイトにアクセスしてください。
下記のいずれかを入力することで、標的遺伝子のプローブミックスを検索します。
- Gene Symbol:遺伝子名 (Sox9など)
- RefSeq:遺伝子配列名(MGIなどで確認)
- Assay ID:プローブ名

検索結果の「Assay Configuration」をクリックすることで、プローブミックスの容量や蛍光色素の種類を選択できます。


プローブミックスの選択基準
プローブミックスを選択する基準や注意点は、上述したThermo Fisher Scientificの場合と共通する部分が多くあります。
その他の注意点については、下記のリンク先を参照してください。
一方、Thermo Fisher ScientificのプローブミックスとIDTのプローブミックスは異なる点もいくつかあります(プローブ/プライマーの溶解方法、推奨のPCRサイクル、解析時のQuencherの設定など)。
初めてIDTのプローブミックスを使う際は、上記リンク先の注意点をよく読みましょう。
まとめ
- TaqManプローブの検索・注文は、リアルタイムPCRの成功に直結する重要なステップです。
- Thermo Fisher ScientificやIDTのサイトを活用すれば、遺伝子名やAssay IDから簡単にプローブを検索・注文できます。
- 蛍光色素、容量、デザイン領域、引用文献数などの選定ポイントを押さえることで、目的に合ったプローブを効率よく選ぶことができます。
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