この記事は、多群比較を行うことができるソフトウェアである R と GraphPad Prism を比較したものです。
以前、統計の超初心者に向けて、統計学的な検定について解説した記事を執筆しました。
【超初心者向け・保存版】Excelでグラフ・エラーバーを作成し、統計学的な検定を行う手順
その際に多重比較を行う方法として下記のサイトを紹介させて頂きました。
上記のサイトでは多重比較で用いるTukeyの方法やDunnettの方法を実行可能です。インターフェースも分かりやすく、使い方を簡単にレクチャーするだけで、実習で学生に使って貰うことも可能です。大変素晴らしいサイトです。
ただ英文雑誌の投稿論文の欄に、上述のサイトを記載するのは難しいと感じています。記載しても良いのかも知れませんが、経験がないので断言できません。
そこで本記事では、投稿論文に記載できる (しても多くの場合に問題ない) 統計ソフトウェアの中で、R と GraphPad Prism について解説します。両者とも私が使用している (したことがある) ソフトウェアです。両者の長所・短所に触れつつ、多重比較に注目した解説を行います。
目次
1. R と GraphPad Prism の長所・短所
Rの長所
- (ほとんど) 全ての多重比較の検定を実行可能 → 「R + (検定手法の名前)」で Google 等で検索すれば、大体の検定方法のやり方が分かります。
- 無料で使用できる → R は無料でダウンロード・使用できます。
Rの短所
- 使えるようになるためのハードルが高い → R を動かすためにはコマンドを打つ必要があります。「データの場所を指定する」や「出力ファイルの名前を指定する」などの基本的な事もコマンドで指定する必要があります。初心者は検定を行う前の基本的な段階で挫折する可能性があります。R の基本的な使い方が分かれば、個々の検定手法のコマンドは調べれば分かるので、独学でもできると思います。
GraphPad Prism の長所
- 使いやすい → R と比較して、GraphPad Prism は圧倒的に使いやすいです。R の様に、検定を行うためにコマンドを入力する必要もありません。Excel と使用感が似ています。Excel に入力していたデータをコピペして、GraphPad Prism で検定・グラフ作成を行うこともできます。Excel の使用経験があれば、初心者でも1時間程度で検定を行う所までいけると思います。
GraphPad Prism の短所
- 有料である → GraphPad Prism は有料のソフトウェアです。2023年8月現在、個人利用のサブスクリプション価格は学生 $142/年、アカデミック関係者 $202/年 です (参照元:How to Buy Prism)。いきなり契約するにはハードルがやや高い価格です。30日間は無料で試用できるので、使用感を確かめてから契約するのがおすすめです。指導教員に提案して、ラボの共用パソコンにインストールして貰うのもありだと思います。日本語版もありますが、英語版よりややお高めです。英語版でも使用に苦労することはあまりないので、迷ったら英語版から始めてみるのが良いかも知れません。
- 実行できない検定がある → R がほぼ全ての多重比較に関する検定が行えるのに対して、GraphPad Prism では実行できない検定があります。GraphPad Prism で実行可能な検定に関しては下のフローチャートにまとめました。注意点として、フローチャートに記載されている検定が、多重比較の検定の全てではありません。フローチャートに記載されていない多重比較の検定も沢山あり、その中には GraphPad Prism で実行可能なものもあります。普段自分が使う検定がGraphPad Prism で実行可能かを調べてから契約するのが良いと思います。
2. こんな人には R または GraphPad Prism の使用をおすすめ
こんな人には R の使用をおすすめ
- R の使用経験がある
- GraphPad Prism で実行不可能な検定を行いたい
- R の使い方を学ぶための時間がある (初心者は R の基本的な使い方を学ぶのにも結構な時間がかかる)
- 今後 R を継続的に使う可能性がある
- 無料で検定を行いたい
こんな人には GraphPad Prism の使用をおすすめ
- 実行したい検定が GraphPad Prism で使用可能である
- 検定について学ぶ時間がない (数時間以内に検定を行わないといけないが、R の使用経験がない等)
- GraphPad Prism を使える環境にある (購入資金がある、ラボのPCで使える等)
3. おすすめの R の学び方
初心者が R を学ぶのはハードルが高いです。ネット記事や書籍を片手に勉強するのも良いですが、記事や書籍が想定していない箇所でつまずくことも多いです。つまずいた箇所を相談できる人が周囲にいないと、挫折する可能性が高くなります。
おすすめは学内・学外で行われている初心者向けの R を使った講義・演習・講習会に参加することです。教える側も初心者を指導するノウハウがあり、つまずいても質問できるので、挫折する可能性が低くなります。一通りの使い方を学んで、トラブルがあっても何とか自分で解決方法を探せるようになると、色々なことを自分でできるようになって楽しいです。
GraphPad Prism は R と比較して使いやすいので、特におすすめの方法はありません。インストールして触っているうちに使えるようになると思います。
以上です。この記事では私の使用経験がある R と GraphPad Prism について記載しましたが、他にも検定を行えるソフトウェアは沢山あると思います。もしおすすめの検定ソフトウェアがありましたら、この記事あるいは 私のX (旧Twitter) までお気軽にコメントください。
コメント