本記事は、ここ8年間マウスのゲノム編集に関わっている現役大学教員の私が紹介する 「マウスのゲノム編集に有用なサイト・ウェブツール」 について記載しています。
遺伝子探索
ゲノム編集する場合は標的とする遺伝子がある場合が多いです。ここではマウスの遺伝子探索に有用なツールを紹介します。
MGI(遺伝子探索、配列取得、発現データ、KO表現型、関連文献など)
MGI (Mouse Genome Informatics) はマウス研究のための包括的なデータベースです。マウスの遺伝子を調べる場合にまずアクセスすることが多いサイトです。
遺伝子名を入力して検索するだけで、遺伝子上違法、発現データ、ノックアウト(KO)表現型、関連文献など多くの情報を入手することができます。
BioGPS(遺伝子発現データ)
BioGPS はヒト・マウス・ラットの様々な組織や細胞における遺伝子発現データを提供してくれるデータベースです。マウスだけでなくヒトやラットの情報を得ることもできます。
標的とする遺伝子が発現する細胞や組織の情報を得たり、KO した場合の表現型を予想するのに役立ちます。
IMPC(KO表現型)
IMPCは国際マウス表現型解析コンソーシアム (International Mouse Phenotyping Consortium) の略称で、マウスの全遺伝子についてノックアウトマウスを作製し、標準化された手法で網羅的な表現型解析を行う網羅的な表現型解析を行うプロジェクトです。
IMPCのサイトでは遺伝子 KO の影響や詳細な表現型情報を得ることができます。すべてのマウスの遺伝子の情報があるわけではありませんが、自分が KO したい遺伝子の情報があった場合は参考になります。
ゲノム編集マウス入手
自身が作出したいゲノム編集マウス(あるいはそれと同様の機能を持った遺伝子改変マウス)がすでに他の研究者によって作出され、それが入手できる場合があります。
場合によっては自身でゲノム編集マウスを作出するより効率的に研究を進められる場合がありますので検討してみましょう。
Google などで「遺伝子名 mouse knockout」などで検索すると、入手できるサイトが見つかるかもしれません。
Jackson Laboratory(マウス系統入手)
Jackson Laboratory はマウス遺伝学研究で有名な生物医学研究機関です。
遺伝子改変マウスを含む多くのマウス系統を提供しており、自身が必要とするマウス系統が入手できるかも知れません。
理化学研究所 バイオリソース研究センター(マウス系統入手)
理化学研究所 バイオリソース研究センター(理研BRC)は、生命科学研究のための重要な生物資源(バイオリソース)を提供する施設です。理研BRC では多様なバイオリソース(マウス、実験植物、細胞材料、遺伝子材料、微生物材料)を取り扱っています。
理研BRCからマウス系統を入手するには、理研BRCのウェブサイトで提供されているマウス系統を検索してみましょう。
ガイド RNA 設計
ゲノム編集には多くの方法がありますが、ここでは CRISPR-Cas9 システムを利用してゲノム編集を行う場合を想定して、必要になる「ガイド RNA」 をデザインするツールについて紹介します。
KOnezumi(ガイドRNA設計、ジェノタイピング用PCRプライマーの設計)
KOnezumi(コネズミ)はノックアウトマウス作製のためのゲノム編集デザインを自動化するWebツールです。筑波大学の研究グループによって開発されました。
KO したい遺伝子名を入力するだけで、必要となるガイド RNA やジェノタイピング用PCRプライマーを提案してくれる非常に便利なツールです。
マウスの遺伝子全てに対応してはいませんが、標的とする遺伝子が登録されていた場合はラッキーです。登録されていない場合は下記のガイドRNA設計用のツールを用いて自身でガイドを設計しましょう。
CRISPRdirect(ガイドRNA設計)
CRISPRdirect は CRISPR/Cas9 システムによるゲノム編集に使用するガイドRNAを設計できるWebツールです。
配列の入力と生物種の選択をするだけで候補となるガイドRNA配列のリストを示してくれます。
ガイドRNAを設計できるツールには他に CHOPCHOP や CRISPOR など多くの種類があります。自身で使いやすいツールを利用しましょう。
ゲノム編集結果の確認(genotyping)
ゲノム編集を行ったらその結果を確認する必要があります(genotyping)。genotypingの具体的な方法としては「PCR法による目的配列の増幅と電気泳動による確認」や「シーケンシングによる配列確認」などがあります。ここでは genotyping の際に有用なツールを紹介します。
Primer3(プライマー設計)
Primer3 は PCR やシーケンシング用のプライマーを設計するためのウェブツールです。
DNA配列を入力してパラメータを設定(プライマーの長さ・位置、増幅産物の長さなど)するだけで候補プライマーのリストを作成してくれます。
CRISP-ID(変異解析)
CRISP-ID は複数の遺伝子型が混在したサンプルのダイレクトシークエンス情報から、個々の遺伝子型の変異を読み取るために使用できるウェブツールです。
ゲノム編集で作出した初代(F0)マウスは、野生型と変異型の細胞が混在したキメラマウスとなっている場合が多いです。ゆえに F0 マウスの組織を用いてダイレクトシークエンスをしてもシグナルが混在して読み取ることができず、genotyping ができない場合があります。CRISP-ID は混在したシグナルを個々のシグナルに分離するのに使用できるツールで、F0 マウスの genotyping に有用な場合があります。
サンガーシークエンスのファイルとリファレンス配列(野生型配列)を入力することで、変異配列情報を取得することができます。
変異解析に使用できるツールには TIDE、ICE Analysis、Indigo などがあります。
Clustal Omega(配列アラインメント)
Clustal Omega は複数の配列のアラインメントを作成するためのツールです。
CRISP-ID などで分離した変異型配列が、野生型配列とどこが異なるのかを調べるのに便利です。
以上、マウスのゲノム編集の参考になれば幸いです。
ウェブツールに関しては下記の記事もご覧ください。
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