この記事は、英語で学術論文を書く時の心構えをまとめたものです。学生の指導用に作成したものに、加筆・修正して作成しました。
各項目は「私が今までに指導されたこと」や「書籍などで学んだこと」、「自身の経験をもとに考えたこと」、「過去の自分に伝えたいこと」をもとに書いています。論文の具体的な書き方の手順よりは、論文を書く時の考え方・姿勢が多めです。
【目次】
- 最初は日本語で書いても良い
- プレ要約を書く
- 初期段階で方向性をチェックして貰う
- 文法や表現にこだわらないで、とにかく書く
- 論文執筆にGood Writingはない、Good Re-writingがあるだけ
- 学会発表ができれば論文は書ける
- 制限期間内で論文を受理させるのは非常に難しい
- 「論文を書くこと」と「自分の制限時間」は別問題
1. 最初は日本語で書いても良い
英語の文章を書き慣れていない人は、まずは日本語で書いても良いです。
いきなり英語で論文を書いて添削を依頼した場合、添削者が「科学論文としてどうか判断する」以前に「英語表現が拙くて何を言いたいのか分からん」ということになるかも知れません。
次の流れでも良いと思います。
本文を日本語で書く → 英語で書き直す → 英語版の添削依頼をする時に、参考資料として日本語版を一緒に渡す
本文全部を日本語・英語の両方で書くのが難しい場合は、要旨は英語と日本語の両方で書いて添削して貰うのもありだと思います。
2. プレ要約を書く
いきなり本文を書き始めるのではなく、まずはプレ要約を書きましょう。
プレ要約とは、自身の研究に関して下記を各々1-2文で記載します。
- 研究を行う動機となった問題点、研究課題
- 1に対するアプローチや方法
- 主要な結果
- 結論
プレ要約なら指導教員のチェックも容易です。
きちんとしたプレ要約が書ければ、その後の論文執筆で迷走しにくくなります。
プレ要約の詳細については下記の記事も読んでください。
3. 初期段階で方向性をチェックして貰う
論文執筆に慣れていない状態で、いきなり論文全部を書いてから添削依頼をするのは避けましょう。プレ要約や要約を書いた段階で、論文の方向性についてチェックを受けましょう。
「方向性が間違った完成品」は「方向性が間違った未完成品」よりやっかいです。方向性を間違って作った100%のものを0%から作り直すのは辛いです。それを指示する方も辛いです。
初期段階で方向性が合っていることを確認して貰うのが吉です。方向性さえ合っていれば、大きな軌道修正を避けられます。
4. 文法や表現にこだわらないで、とにかく書く
「文法が正しい文章をゆっくり書く」より「文法が怪しい文章を速く書いて、後から読み直して修正する」のが効率的です。
そもそも、ネイティブでなければ正しい英語表現はいくら考えても分からないかも知れません。「言いたいことは分かる」レベルの英文が書けたら、英文校閲業者などのプロに任せる方が効率的かも。
5. 論文執筆にGood Writingはない、Good Re-writingがあるだけ
誰が書いたどんな文章でも、初稿は酷いものです。初稿を読み返して書き直すことで、良い文章になります。
初稿は良い文章を書こうとせずに、とにかく書いていち早い完成を目指しましょう。
6. 学会発表ができれば論文は書ける
学会発表済みの研究内容については論文が書きやすいです。
- 学会発表が指導教員・学会に許可された → ある程度の形になっている
- 学会発表用に要旨やスライドを作成した → それをもとに論文が書ける
- 学会にて質疑応答を経験した → 査読者からのコメントが予想できる
逆に学会発表をしていない研究で論文を書こうとすると…
- 論文執筆できるほど形になっているかを自分で判断する必要がある
- もとにするものがない状態で0から論文を書き始める必要がある
論文を何本も書いた経験があるなら、学会発表なしでいきなり論文執筆できるかも知れません。
一方、人生で初めて論文を執筆する場合には、事前にその研究内容について学会発表しているのが望ましいです。学会発表なしで人生初論文を書くのは覚悟の準備が必要です。
論文執筆を目指しているなら、学会発表の機会に積極的になりましょう。
7. 制限期間内で論文を受理させるのは非常に難しい
論文は最終的に受理されるまで「執筆 → 投稿 → 査読 → 修正 → 再投稿 → (掲載拒否) → (繰り返し) → 受理」という過程を経る場合がほとんどです。この過程にどの程度時間がかかるか、分からない場合も多いです。
執筆が慣れていないと、執筆そのものに多くの時間がかかります。執筆を終えても、投稿 → 掲載拒否というプロセスを繰り返すことになるかも知れません。月単位・年単位で時間がかかることもあります。
ゆえに、ある制限期間内 (例 学位審査まで) で論文を受理させようと思ったら、相当に余裕を持って上記のプロセスを進める必要があります。
研究進捗や論文投稿については、自分ではコントロールできない要素も多いかも知れません。その場合でも、自分でコントロールできることは早めに取り組むのがおすすめです。いつでも論文執筆を開始できるように「材料・方法」を書いておく、引用文献リストを作っておくなど、できることは早めにやっておきましょう。
8. 「論文を書くこと」と「自分の制限時間」は別問題
就職先が決まっていても、博士課程の年限が迫っていても、それで論文の投稿・受理が許可される訳ではありません。基本的には別問題です。
論文になるかは研究内容によって決まります。指導教員が「卒業が迫っているから論文投稿を許可しよう」と考えること、雑誌社や査読者が「卒業が迫っているから受理してあげよう」と考えることを期待してはいけません。
自分の研究がどう進展するか分からない部分も多いと思います。それでも自分が行っている研究が「結果がある程度は予想できるのか」あるいは「どのような結果が出るか全く予想できないのか」は考えておくべきです。
後者の場合、制限時間内に論文化するのが難しい可能性もあります。その場合は、「指導教員と学位取得までの道筋について話し合う」や「論文化への見通しが立ちやすい研究テーマにも同時に取り組む」などの対策が必要かも知れません。
研究は時間がかかります。自分が行っている研究内容は、自分の人生に大きな影響を与えることがあります。ゆえに、自分で考え行動する必要があります。自分の人生の責任は、結局は自分で取ることになります。自分の船は自分で漕ぎましょう。
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