【簡単解説】論文の考察 (Discussion) の書き方

研究・実験・勉強

この記事は、投稿論文の考察 (Discussion) の書き方について記載したものです。

意図としては、下記の様な使用方法をイメージして執筆したものです。

教員「投稿論文の考察を書いてみてください」

学生「考察はどうやって書けばよいですか?」

教員「この記事を読んでください」

以前にイントロダクションの書き方の手順についての記事を書きましたが、イントロダクションとは異なり考察には決まった型がないように思います (極論、何を書いても良い)。

ただ何を書いても良いと言われても、初めて論文を書く学生は困ると思います。論文の考察に書くべき (書いた方が良い、書いても良い) 内容についての何かしらの基準や手本があった方が、論文も書きやすいし指導もしやすいと考えました。

この記事では、論文の考察で書くべき内容について私が考えたことを記載します。ご意見・異論は当然あるかと思いますが、初めて論文を書く学生やそれを指導する立場の人の参考になるものがあれば幸いです。

目次

  1. 事前準備と基本姿勢
  2. 考察の書き方のパターン
  3. 考察の書き方の具体例
  4. あとがき

1. 事前準備と基本姿勢

1-1. 考察を書く前にプレ要約を書く

イントロダクションの書き方とも共通しますが、考察を書く前にまずプレ要約を書きましょう。プレ要約とは何か、どうやって書くかは下記の記事を読んでください。

考察は何を書いても良いですが、流石に論文の大きな流れ (メインのストーリー) と矛盾したり、流れから大きく外れた考察を書いてはいけません。プレ要約で書いた内容は、まさに論文のメインストーリーと言えるものです。考察で書いた内容がプレ要約の内容と矛盾したり、大きく逸れたりしないか意識しましょう

1-2. 考察では既報を引用することを基本に考える

考察は何を書いても良いですが、根拠のない妄想を書いてはいけません。考察で記載する内容にはある程度の根拠が求められます。

根拠を示す1つの方法として、既報 (論文、学会発表、書籍) を引用するという方法があります。論文執筆初心者は、既報を引用することを考察を書く際の基本と考えるのが良いと思います。引用がない主張は、単なる想像なのか根拠のある主張なのか、読み手はもちろん書き手も分からなくなることがあります。

考察を書く基本的な流れは「考え・主張を書く」→「その考え・主張を指示する既報を引用する」とするのが良いと思います。引用できる既報が見つからないような考え・主張を記載する時は要注意です。その考え・主張が妄想である可能性があります。

1-3. 研究の過程で調べたことは出典情報と一緒に記録しておく

研究を進める中で日々気になることが出てくるはずです。気になったことについて教科書や既報で調べると思いますが、調べた内容は出典情報と一緒に記録しておくことをおすすめします。パソコンやスマホのメモ帳などに書き留めておきましょう。

「研究を進める上で気になったこと」は論文の考察を書く種になります。その記録を眺めることで、論文の考察で書くべきことのヒントが得られるかもしれません。その際には出典情報が一緒に記載されていることが重要です。「Aという培養細胞はBという培養細胞よりも増殖が速い」というメモを見つけても、出典情報がないと論文に記載することは難しく、改めて出典を探すことになり二度手間になります。調べた内容は出典情報と一緒に記録すると、後の自分を助けてくれます。

1-4. 学会で発表した内容や質問された内容を土台に考察を考える

学会発表をしている研究内容の論文を執筆する場合には、学会発表のスライドやポスターに記載した考察や展望を土台に論文での記載を考えるのがおすすめです。学会発表の内容は指導教員のチェックを受けているはずなので、スライドやポスターに書かれた考察や展望は大きく的外れなことは書かれていないでしょう。

論文執筆の事前チェック的な意味でも、論文執筆初心者はまずは学会発表を最初に行うのがおすすめです。学会発表した研究内容の論文は、学会発表していない研究内容の論文よりだいぶ書きやすいはずです。論文執筆初心者が学会発表していない研究内容の論文を書くには、覚悟の準備が必要です

学会発表時に質問された話題について考察で触れるのも良いと思います。学会で質問された内容は、論文の査読者も気になったり、質問してくる可能性があります。その様な内容については、あらかじめ考察で記載しておく方がベターです。

学会で発表された全ての質問について考察で記載する必要はないと思いますが、論文のメインストーリーに関連するような質問を受けた場合には、その内容について考察で触れることを検討してください。そのためには、学会で受けた質問をきちんとメモしておくことが重要になります。

学会発表を行う際には下記の記事も参考にしてください

2. 考察の書き方のパターン

考察の書き方のパターンについて下記の3つを考えました。これ以外にもパターンは沢山あるかと思いますが、考察で何を書いたら良いか分からない場合に参考にしてください。

  1. 今回の研究で得られた結果の詳細な説明・解釈 (Result で書ききれなかった内容など) を記載
  2. 今回の研究の限界や今後に必要となる実験について記載
  3. 今回の研究が他の研究分野や社会に対して与える影響を記載

いずれのパターンでも、考え・主張を記載したら既報を引用することを基本としてください

これ以外にもパターンは沢山あるかと思いますが、考察で何を書いたら良いか分からない場合に参考にしてください。

3. 考察の書き方の具体例

上述した「考察の書き方のパターン」について、「カレーにいれるニンジンの切り方についての研究」を題材に以下に具体例を記載します。なお記載内容は私が適当に考えたものですので、料理に詳しい人には違和感があるかと思います。その点はご容赦ください。

「プレ要約」と「考察の書き方のパターンの具体例」の順に記載します。以前執筆したプレ要約についての記事を先に読むことをおすすめします。

[プレ要約]

研究を行う動機となった問題点、研究課題 → カレーに入れるニンジンの切り方は乱切りが多い。他の切り方でニンジンを切ることで、より良いカレーが作れるのではないかと考えた。

課題に対するアプローチや方法 → 様々な切り方のニンジンを用いてカレーを作った。各切り方について、ニンジンの柔らかさやうまみ成分量の計測およびカレーの美味しさについてのアンケート調査を行った。

主要な結果 → 乱切り以上にニンジンが柔らかくなり、うまみ成分量が増える切り方が複数あった。それらの切り方で作ったカレーは、乱切りで作ったカレーよりも美味しいというアンケート結果が得られた。

結論 → 乱切り以外の切り方でニンジンを切ることで、より良いカレーを作れる可能性が示された。

[考察の書き方のパターンの具体例]

1. 今回の研究で得られた結果の詳細な説明・解釈 (Result で書ききれなかった内容など) を記載

(具体例。太字は既報の引用箇所。)

  • 他の料理では、野菜の切り方によって柔らかさやうまみ成分量が異なることが報告されている (引用文献名)。本研究で行ったカレーでの検証でも、切り方により柔らかさやうまみ成分が異なった (Figure A)。柔らかさは〇〇切りが、うまみ成分含量は△△切りが高いスコアを出したが、これはシチューに関する過去の報告と同様の結果だった (引用文献名)
  • 本研究では、柔らかくうまみ成分含量が多くなる切り方のニンジンを用いて作製したカレーが、アンケートでも高いスコアを出す傾向にあった (Figure B)。柔らかさについては、煮物での過去の報告と同様の結果であったが、野菜炒めの報告とは相反する結果であった (引用文献名)この理由として、カレーや煮物では柔らかいニンジンが好まれるのに対して、野菜炒めでは歯ごたえがあるニンジンが好まれることが考えられる (引用文献名)。カレーに適したニンジンの切り方は、柔らかくうまみ成分含量が多くなる切り方が望ましいと考えられる。

2. 今回の研究の限界や今後に必要となる実験について記載

(具体例。太字は既報の引用箇所。)

  • 本研究では包丁を用いたニンジンの切り方のみを検証対象とした。現在は野菜の切り方について多様なパラメータ設定 (角度、サイズ、重量など) が可能なフードプロセッサーが販売されている (引用文献名)。カレーに入れる野菜のより適した切り方を明らかにするには、フードプロセッサーを用いたより詳細なパラメータの検証が必要だと考える。

3. 今回の研究が他の研究分野や社会に対して与える影響を記載

(具体例。太字は既報の引用箇所。)

  • 本研究ではカレーに入れるニンジンの切り方についての検証を行った。ニンジンに限らず、多くの野菜で切り方が料理の美味しさに影響を与えることが報告されている (引用文献名)。今後、ジャガイモやタマネギ等のニンジン以外の野菜についても切り方の検証を行うことで、より良いカレーを作ることが可能になるかも知れない。
  • 本研究においてカレー作りにおいて食感や味の観点からより適した切り方として示された〇〇切りや△△切りは、◇◇切りよりも調理時間の短縮につながるとの報告がある (引用文献)現在カレーを作る際のニンジンの切り方として最も一般的な切り方は◇◇切りであり、多くの市販のカレー用カット野菜のニンジンも◇◇切りがされている (引用文献名)。本研究の成果は、カレーにおけるニンジンの◇◇切りの有用性を提示することで、新たなカレーの調理方法の開発や関連する食品関連産業の発展に寄与する可能性がある。

4. あとがき

この記事を書いて再認識しましたが、考察の型やパターンを網羅的に記載するのは難しいと感じました。世にある論文の書き方についての資料の多くで、イントロダクションや結果の書き方は詳細に書かれているが、考察に関してはボンヤリとしか書かれていないのも納得できる部分があります。

この記事で書いた例が考察の書き方の全てではありませんし、不正確な部分もあると思います。それでも「初めて論文の考察を書くが、何をどうやって書けば良いか分からん人」はこの記事を参考にして、「自分なりの論文の書き方の型」を作るのに役立てて貰えればと思います。

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