連絡が取れなくなったサークルの後輩の女の子を心配して、その子がバイトしているコンビニのシフトを過去のSNS投稿やLINE返信の曜日・時刻から予想し、その子のバイト中にその店を訪れて何も声をかけずにただ買い物をしてきたA君の話

雑談

※この話はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係がありません。

学生時代、ある飲み会で同級生のA君が「サークルの後輩の女の子とよく目が合う」と言い出した。「A君に気があるのでは?」と言って欲しいのがよく分かる口ぶりだった。

我々同級生はA君がどういう人物か知っていたので「また始まったか…」と思った。おそらくA君がその子(Bさん)に常に視線を送っていたいたために、Bさんがその視線に気付いていて結果的に目が合っているだけなのだろうと皆が思った。

しばらくして別の飲み会で、A君が「Bさんと連絡が取れない」と言い出した。これまではLINEを送れば返信があったのに、ここ数日は返信がないらしい。サークルにも顔を出していないとのことだ。我々はA君の猛アプローチに嫌気がさしたのだろうと心の中で思ったが、気を遣って「単に授業が忙しいだけでは?」と言った。しかしA君曰く「どんなに忙しくても彼女が僕への返信を怠るはずがない。事件や事故に巻き込まれたのでは…」と本気で心配していた。ちなみにA君とBさんは恋人関係ではない。ただのサークルの先輩と後輩という関係である。

また別の飲み会で我々がA君にBさんのその後について尋ねたら、彼女のバイト先に行って会うことができたと言った。では前回の飲み会以降にBさんから連絡があったのかと尋ねたら、そうではないらしい。連絡がなかったので心配してバイト先に行ってみたのだと言う。ではバイト先を知っていたのかの尋ねると、知らなかったので見つけ出したのだと言う。我々に戦慄が走った。

A君の話はこうである。前回の飲み会の後、相変わらず連絡を取れないBさんを心配したA君はなんとかBさんに会いに行こうと考えた。しかしサークルには顔を出していない。夏休みだったので大学内を捜しても見つからないだろうと考えた。Bさんの自宅も知らない。Bさんの出現場所についてA君が知っている情報は「Bさんの家の最寄り駅」と「Bさんがその駅の近くのコンビニでバイトをしている」ということのみであった。

そこでA君はバイト先に行ってみようと考えた。しかしバイトのシフトが分からない。コンビのバイトなので日曜日から月曜日まで毎日24時間シフトの可能性がある。しかも候補となるコンビニは複数ある。やみくもに候補のコンビニを捜し回るのは効率が悪いとA君は考えた。

そこでA君はバイトのシフト時間帯を予想することにした。Bさんが過去に「SNSへ投稿を行った」あるいは「LINEの返信をした」曜日と時刻を全て洗い出し、その曜日・時刻はシフトではないと判断した。そうしてバイトのシフトの曜日・時間帯の予想を立てた。

あとは予想した時間帯に候補のコンビニをまわるだけである。回りやすい日中の時間帯から捜索を開始したA君は、程なくしてあるコンビニのレジにいたBさんを見つけてしまった。

ここまで恐怖に震えながらA君の話を聞いていた我々は声を振り絞り「Bさんになんと声をかけたのか?」ときいた。A君は「何も声をかけずにただ買い物をしてきた」と語った。我々の限界は近かった。

A君はこう語った。Bさんを見つけたA君は、カゴに飲み物とお菓子を入れてBさんのいるレジに向かった。BさんはA君を見てひどく驚いた顔をしていたという。そりゃそうである。そんなBさんに対してA君は笑顔で目を合わせただけで一切声をかけずに、一般客と同じようにレジで会計をして店を去ったという。

我々の中の勇者が「それってストーカーでは?」と果敢にも尋ねた。A君は「僕はBさんに声を掛けた訳ではない。ただ偶然入ったコンビニで買い物をしただけでストーカーになるのか?」と笑顔で答えた。勇者は敗れた。

A君がコンビニから去ったあとのBさんの心情は想像するに忍びない。避けている先輩が教えていないはずのバイト先のそれもシフトの時間帯にやってきた。笑顔で目を合わせたことから偶然ではない。しかも何も声をかけていかなかった。「連絡が取れなくなってもお前のことはいつも見ている」と言わんばかりに。しかもこのコンビニは自宅に近い。バイトのシフト終わりまで近くで見張られて、自宅までつけられるかも知れない。帰り道は背後に気を付けないと。いや、自宅は既に特定されているかも知れない。やばい、怖い。

A君がバイト先に突撃した日の夜にBさんから連絡があったそうだ。「もう、びっくりしましたよ~」的な極めて普通な文章だったらしい。きっとその文章を入力する手は震えていただろう。A君を刺激しないように、文面を何度も推敲したに違いない。

もちろん、その後にA君とBさんが恋人関係になったという話はないし、幸いにもB君が警察のお世話になったという話もない。我々がこの話から得た教訓は「個人情報の取扱いには慎重にならねばならない」ということである。本気を出せばバイト先やシフトを特定する位は簡単なことなのかも知れない。

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